鬼と白蓮

伊吹萃香聖白蓮。中々見かけ無い組み合わせではないだろうか?

持ち出しておいてアレだが両者の関係は史実・民俗学上ではかなり険悪だと考えられる。
それというのも伊吹萃香、乃ち酒呑童子は伊吹弥三郎を父として生まれた後、まず比叡山に住み着く。
しかしそこに後に延暦寺を建立する伝教大師最澄が入り込み、酒呑童子と住処を争う。

謡曲大江山』に次のような一片がある。

「我らは比叡山を重代の住処とせしを、大師坊といつしえせ者、峰には根本中堂を建て、麓に七社の雷神を斎ひし無念さに、一夜に三十余丈の楠となって奇瑞を見せし所に、大師坊一首の歌に、阿耨多羅三藐三菩提の仏達我が立つ杣に冥加あらせたまへと祈りしかば、仏達も大師坊にかたらはされて、出てよ出でよと責めたまへば、力無くして重代の比叡の御山を出てしなり。」

仏教徒に住処を追い出された酒呑童子大江山に住み着き、平安京で暴虐を振るった。

伊吹萃香が仏教を毛嫌いしていてもおかしくはないだろう。


一方茨木華扇、乃ち茨木童子(勿論確定ではないけれど)は酒呑童子と違い逆に聖(ここでは固有名詞でなく仏教徒の異称)に助けられている。

茨木童子は奇怪な赤ん坊として産まれたため、父親に捨てられる。髪結屋がそれを拾い大きくなるまで育てる。
茨木童子が髪結屋の手伝いをしている時誤って客を傷つけてしまい、その血を舐めた茨木童子は鬼に目覚めるのだ。

鬼に目覚めた茨木童子伊吹山に逃げ込むが、そこで修行する聖に助けられ、逃亡の手伝いをしてもらう。その後に大江山酒呑童子の舎弟となるのだ。

この二人の違いは興味深いし、華扇と白蓮の過去話などは中々面白い題材だと思う。